INTERVIEW

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野村 圭秀 さん

埼玉県秩父市 曹洞宗 宝蔵寺住職

レコードは“経蔵” ー 住職が語る、音楽と供養のつながり

野村 圭秀さん(埼玉県秩父市 曹洞宗 宝蔵寺住職)- インタビュー
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——まず、野村さんが当社の商品を見つけた背景を。お願いします。

インスタかFacebook(今はメタで同時配信)で見つけました。いろいろ事例を見る中で、DJの方の導入例や、レコードとカフェのお店、アーティストの自宅スタジオへの設置などが載っていて、いいなと思ったんです。

——野村さんはお若いので、中学・高校の頃にLPはまだ売っていましたか?

売ってました。渋谷にCiscoがまだあった頃で、末期に近い時期ですが。僕らの頃はラップ/ヒップホップのブームが来て、若者のストリートカルチャーとしてDJ文化が根付いて、レコードで聴くという流れがありました。ただ、世の中的には圧倒的にCDでしたね。だけど渋谷は世界一レコード店が集まる街で、古い音楽やレコードが好きだった僕にとって当時(90年代中盤)の環境はとても恵まれていました。

野村 圭秀さん(埼玉県秩父市 曹洞宗 宝蔵寺住職)- インタビュー

——新譜はレコードでは出ていませんでしたよね?

ヒップホップやR&B、ロックの一部は新譜もアナログで出ていました。メジャーよりは趣味性の強い領域ですが、アナログのプレスはありました。

——僕の中高時代はレコードしかなくて、25歳くらいでCDが登場。ちょうどその頃、日本ではナガオカ(レコード針)が廃業するという噂が流れて、「針がなくなったら終わりだ」と。友人はレコードを買取店に持ち込んで、LP1枚10円で売る時代でした。乗り遅れた世代は今LPを手元に残して困っている…そんな感覚でした。

わかります。高校生の頃、レコードを聴くと言うと変わった目で見られました。どんなに減っても同じ針を使い続ける、みたいな極端な世界観で(笑)。

——私たちは設計事務所ですが、自社ブランド「マルゲリータ」で商品を開発し、ネット販売しています。最初に作ったのがレコード収納ボックスでした。展示会に出したのですが、若い方にはまず「レコードって何ですか?」から始まる(笑)。2005年頃で、レコードがいったん下火になっていた時期ですね。とはいえ今はタワーレコード渋谷の「TOWER VINYL」フロアも活況で、外国の方だらけ。日本の中古レコードは状態が良く評価が高い。

そうですね。2000年代は新譜アナログのコーナーが小さくなった気がしますけど、今はまた活気があります。丁寧に扱われてきた日本盤は高評価です。

——当時は「針がなくなる」と言われれば打つ手がない。オーディオ各社もどんどん無くなり、サンスイは名機の代名詞でしたが姿が見えなくなった。オンキヨーも厳しく、デノン(当時の読みは“デンオン”)など、ブランドの呼び方も変わったり。実はオンキヨーのデザインコンサルをしていた時期があって、「LIVERPOOL」というシステムがビートルズ連想でヒットしましたが、その後業界全体が縮んでいった。レコードで聴くオーディオはどんどん“趣味の最深部”へ。

僕らの入口は“ハイエンドで高音質”より“まずレコードを聴きたい”でした。みんながこんなシステムを持っているわけではないし、僕が使っている機材も自分で買ったというより、使わなくなったものを譲られて使っているだけ。とはいえ、当時の価格を今に換算すると到底買えない。だからこそ手放せないし、大事に使いたい。父や母と同じ部屋でレコードを聴けたのは本当に良かったです。棚から父のレコードを出すと、認知症があっても「懐かしい」と反応がある。今日の出来事は忘れてしまっても、昔に自分で買ったレコードや曲は覚えている。不思議ですよね。

野村 圭秀さん(埼玉県秩父市 曹洞宗 宝蔵寺住職)- インタビュー

——今はストリーミングで音楽が“ありがたみ”を失った面もある。レコードは音だけでなく、手に取った時の景色や買った店の記憶まで伴う。

そうなんです。アーティストに詳しくなくても、その一枚をどこで選んだか、買った時の空気を思い出させる。だから手元に溜まっていく(笑)。

——前回の取材で設置の様子を拝見して「すごい」と思いました。その後、額装の相談もいただいて。住職でありながらLP、額装、楽器……多岐にわたりますよね。写真にフェンダーのストラトキャスターが写っていたような…。

あれは兄のもので、フェンダーっぽい色ですが別物です(笑)。グレコやフェルナンデスもあります。フェルナンデスは高校生の頃にベース/ギターで触っていました。日本の一流メーカーですよね。最近は倒産のニュースもありましたが。

——おじいさまは焼き物、おばあさまは絵。拝見しました。油絵は匂いの問題があり、広い家で専用スペースがないと難しい。恵まれた環境ですね。

祖父母の作品は評価されるためではなく、家にとって大切なもの。お寺の空間にも合う。レコードのアートワークもそうで、額や壁の色と合わせて飾っています。

——住職の仕事と音楽は結びつきますか?

根っこで共通するところがあると思います。西洋の教会音楽、仏教の声明のように、宗教儀式に音は欠かせません。僕にとってレコードは“経蔵”のようなもので、何を言っているか完全にはわからなくても、確かに伝わるものがある。名盤からは音楽以上の背景が伝わってくる。アーティストも人間ですから、背景を考えることは先祖を思う感覚ともつながります。人が亡くなったとき、その人の音楽を聴く行為は供養にも通じる。レコードの音は“その人がいた証”を呼び起こすんです。

——アートは“生きた証”。誰かが「ここを直せば良くなる」と言っても、本人不在で手を加えない。絵よりも人物の記録を大切にする。レコード(record)は“記録”という意味でもありますね。今は誰もが自分の声や姿をメディアに残せる時代。お墓にQRコードが付き、生前の声が聴けるようになる時代かもしれない。ここにあるレコードは歴史的財産だと思います。

秩父の山奥に世界に数十枚しかないレコードがあったりして(笑)。地域の文化的財産だと勝手に思って楽しんでいます。

レコード棚 - Shelf 壁一面の本棚 奥行350mm / ロータイプ式本棚 移動式 - マルゲリータお客様事例

——別のインタビューで「音楽は作曲家の頭の中にあるとき“生(ライブ)”。譜面に落ちた瞬間“死(デッド)”。演奏されて“生”。録音されて“死”。生きて動くものをどう伝えるかが自分の役割」という話がありました。

わかります。カバー演奏で曲が“よみがえる”ように、音楽は生と死を往復するのかもしれません。仏教も同じくらい深い。僕は仏教そのものから学ぶより、外から見たほうがわかりやすいと感じることが多い。枠の中にいると当たり前になって気づきにくいから。禅宗は実践の仏教とも言われますが、いったん外へ出て見直すことで良さがわかる。

——お母さまはご実家(先代)から嫁いで来られて、野村さんは二番目で、養子縁組で家名を継いだ、と伺いました。赤羽で歯科医院もされているとか。本当に多才なご一家ですね。

全部、母の頑張りの賜物です。僕も僧侶をやるか悩んだ時期がありましたが、やらなければこの家が途絶える。生まれた家が消えるのは寂しい。親孝行の一つとして、望まれていることを素直にやるのもありだと思いました。今は距離も近い(東京—秩父はバイパスでぐっと近くなった)ので、元気なうちは何度でも連れてきたい。

——90〜95年頃、秩父で設計を4件担当して通っていました。昔は花園で降りて長瀞の橋を渡って…今日はバイパスで10分。びっくりしました。昔はETCもナビもなく、携帯もショルダータイプの時代。30年で距離感も情報も劇的に変わりましたね。

秩父は独特です。生まれ育ちは東京ですが、戻ってきて地域と付き合うと、人情が厚く優しい方が多い。方言もあって、東京から1時間半でも言い回しが違うのが面白い。西武線の駅まで家から10kmで、結局車が必須。東京にいた頃は車不要でしたが、今は車の楽さに甘えてあまり歩かなくなりました(笑)。

——設置の段取りの話に戻ります。レコード棚は量が多いので二回に分けました。次は額装ですね。陶芸の焼き物の収納もお手伝いできれば。

うちは単に物が多い家系なんです(笑)。片付けは本当に大変で、まず“何に入れるか”から難しい。大工仕事にすると費用が跳ね上がる。その点「雑貨以上・家具未満」というコンセプトに救われました。レコード仲間は日曜大工で作りますが、あの重量に耐える棚は簡単ではない。レコードショップの什器を買い集めても同じかそれ以上の費用になる。マルゲリータの価格は“安くはないけれど納得”。見た目も今の時代に合っていて、おしゃれ。楽しみにしていました。

——“入れて綺麗になりました”だけでなく、“こうしたい”という情熱に応えられるのが嬉しいです。

天王洲アイルのショールームがあると知って、すぐ電話して見に行きました。物を見ないと安心できなくて。以前は配達可能エリアの設定を見て「寄居まで」と書いてあって、トンネル一つでうちなんだけど…とドキドキしつつ相談を(笑)。

——「ここなんですが行けますか?」というお客様が多く、固定の配達エリア表記はやめました。設置担当も秩父に縁のある者で、帰りに話が弾んだと聞いています。

ありがたいです。いなくなってから片付けても遅い。元気なうちに整えるのがいちばん感動的だと思います。本当にありがとうございました。

——こちらこそ、ありがとうございました。

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住職のご自宅に

埼玉県秩父市にお住まいのお客様です。お寺の住職を務めながら、ご自宅には収まりきらないほどのLPレコードを所有されており、このたび2つの部屋に分けて整理されました。音響設備も整えられ、アナログレコードを存分に楽しめる空間がつくられています。