神奈川県の戸建て住宅にお住いのお客様です。その新築の住宅のリビングの一角の階段下に「Shelf ロータイプ本棚 奥行350mm」をカスタマイズしたオリジナルのラックを設置、アナログレコードの収納も兼ねた自宅用DJブースとしてお使いいただいています。
音楽の途切れない空間
CDの音源に慣れてしまった世代にとって1枚のCDの60分近い演奏時間は短くもなく、長くもない時間です。更にそれがスマホを通して継続的に流れてくるに至っては、音楽はもはやそれに向かって聴くというよりもBGM的なものに成り下がってしまっています。
しかし音そのものに魅せられた人たちにとってはやはり聴き流すというよりはそれに正面から向かいたいところ。ところがきちんとした音源でその音楽に接する場合の一番の問題点は、その再生機の関係で特にそれがアナログレコードの場合だと約20分ほどで音楽が途切れてしまい次に行くまで一定の空白が出来てしまう点です。アナログレコードはその面の演奏が終わる度にターンテーブルの前に立って針をリフトアップして回転を止め盤面を裏返す、場合によっては次のレコードをそのすぐ脇に用意して演奏の終わったものはジャケットの内袋に戻しジャケットにしまう、そして次にかけるの盤面をターンテーブルに載せ再び回転させ針を落とす、という行為を行います。その間音楽は途切れます。手際よく処理しても3分はかかります。
それを解消するのがDJワークです。2台のターンテーブルを駆使することにより終わりそうになった片方の音源をフェイドアウト、もう片方に次にかけるレコードに針を落としゆっくりとフェイドインする、その行為を2台のターンテーブルの間に置かれたミキサーで自然に繋ぐ、それによって音場にはまるでラジオに連続して心地よい音楽が流れてくる様な至福の時間が生まれます。BGMとは違った生きた音楽がそこに流れます。
最近ではリゾート施設のラウンジや都会のレセプションホールでもゲストが自由に使えるDJブースが現れる中、ここでは手軽にDJワークが楽しめる空間が自宅にあります。
2台のターンテーブルを駆使しながらのDJワークは簡単には行きません。曲と曲を繋ぐためのリズム、音程、相性の選択そして何と言っても聴いている人が心地よいと感じる事が重要です。オーディエンスが心地よい感覚を得ようとする分だけDJのスキルは高いものが求められます。
DJとして音楽を繋ぐ行為はかように料理人とその料理を食する人の関係にもどこか似たものがあります。レコードを素材と見立てそれを繋ぐ行為をレシピの一つと置き換えればあるいは納得できるかもしれません。
このお客様のLPレコード収納は一般的な収納方法とは異なりこの様にジャケットの背表紙を奥に持ってきて手前には反対の解放面を向けています。これはジャケットの背表紙を紫外線による劣化から防ぎながら、同時にそれぞれのレコードの位置をこの状態で概ね把握されているという持ち主の几帳面な性格が伺い知れます。DJワークのもう一つのスキルに、何のレコードがどこにあるか、というデータベースの活用を瞬時に左脳的に行うという仕事もあります。そのためには背表紙を眺めつつレコードを選ぶより直感的にその場所からピックアップするという芸当も実は必要なのです。
音楽を再生するという行為そのものは古くは真空管から始まってトランジスタを経て現在はIC回路になっています。真空管はその立ち上がりに時間もかかり発熱、発光し電力を音に変換する際に不要なエネルギーを多く出力します。しかしか頑なに真空管を求めている人が存在する様に不要なエネルギーというものは実は音を求める際には必要不可欠の物という考え方もあります。音と音を繋ぐDJもそれと近いものがあります。オーディエンスが心地よい分DJはスキルとエネルギーが求められます。昨今のデジタル化社会から見れば一見真逆の方向に向かっているかの様なその行為が実は心を癒し豊かにさせる行為なのです。
新築で都会にあるとは思えないほどのゆったりとした間取りと綺麗なデザインのこのリビングで吹き抜けに面した階段の下に佇むこのDJブースがその空間全体を包み込む音場の中心になっている姿がその画像からも滲み出てくる事例です。
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