吹き抜け空間の本棚 上下に連結する

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壁一面に本棚を設置すると、吹き抜け空間に中世の英国の古城のような趣が漂います。
外から差し込む光が僅かに部屋を照らし、上部は薄暗く、照明がなければ見えないような深い闇が広がります。
これはある意味、人々の憧れとも言える、本に囲まれた神秘的な空間です。

その一方で、この空間は単に憧れの対象ではなく、本を囲むことが目的ではありません。
ここでは、いつでも必要な書籍が手に取れる便利さや、自分の人生の軌跡が詰まった姿が一望できる喜びがあります。
そこには言葉にし難い満足感があります。
さらに、上部が見えないほどの古書の場合、その中には遠く祖先から受け継がれた伝統や知識が宿っている可能性もあります。
この空間は単なる本棚ではなく、知識や歴史、文化が息づく場所なのです。

現代の公共図書館では、そのようなシーンは考えられません。
もし存在するとしても、公共の利用者が到達できる場所には、例えばキャットウォークのような構造があり、手の届かない場所はありません。
もちろん、本はそのような高い場所には収められておらず、地震の揺れに備えて配慮されています。

そして、個人の自宅における本棚に関しては、まったくもって不可能な光景です。ただし、そのような夢は今もなお続いています。ここでは、壁一面に本を収納する吹き抜けの本棚を実現した数少ない例を紹介します。

壁一面の本棚を吹き抜けで使う

壁一面本棚の吹き抜け部に於ける取り付けにあたっては下記の内容を基本に据えています。

上部の本棚はなるべく下部の本棚にその荷重を掛けない様に壁に強固に固定する

【File 787】天井の高いワークスペース - Shelf 壁一面の本棚 奥行き350mm - マルゲリータお客様の声

本棚を重ねる場合、上部の本棚の荷重が下部の本棚に伝わり、設置面に相当な荷重がかかります。上部の本棚は壁固定しながら鉛直荷重も壁に持たせるようにし、多くても2段程度に収めるようにします。

上下の本棚の連結にあたっては専用のH型ジョイナーを使用する

【File 787】天井の高いワークスペース - Shelf 壁一面の本棚 奥行き350mm - マルゲリータお客様の声

本棚を上下で連結する際には、各縦材の端部に専用のアルミ押し出し金物で作られたH型ジョイナーを使用し、安定した積み重ねを実現します。また、H型ジョイナーには両面粘着テープを少し貼ることで、前後にずれずに連結させることができます。

実例

吹き抜けに使う

File528 2層吹き抜けの壁面に

3階建ての鉄骨造住宅のリノベーションでは、リビングと上階を繋ぐ階段室の壁一面に奥行250の本棚が設置されました。この本棚は吹き抜け以外の部分にも延長され、上下階でカウンター付きの本棚としても活用されています。その存在感は圧倒的で、どこかアカデミックな雰囲気を醸し出しています。


File341 吹き抜けの天井まで届く壁面収納

天井の高いマンションの一室、そのロフト付きの吹き抜けの様な高い天井の書斎のまさにその天井まで目いっぱいに壁一面の本棚 を設置されました。
吹き抜けまでには行きませんが天井の高い室内に上記H型ジョイナーを用いて壁一面の本棚をさらに延長した事例は下記になります。

大量のレコードを壁一面に並べる

File576 DJ・プロデューサー 井上薫さんの仕事場

LPレコード棚とCD棚を上方に1段連結して、天井までのレコード棚が完成しました。
アナログレコード棚は、横5コマの2台を連結して使用されていたため、1段増築され、最上段には天板が追加され、アナログレコード棚としての完成形に近づきました。
CD棚も同様に、1段増築され、上部には少しの余白ができましたが、縦12段になりました。
上下の本棚は壁に固定されており、上段から下段への水平方向や前後方向の動きを抑制しています。


File623 間仕切りで使用する

このリビングでは、A5判本棚の縦材を延長して天井に取り付け、間仕切りとして使用されています。
お客様ご自身が本棚にオイルステインの塗装を施したため、これまでとは異なるテイストが演出されています。


File521 大学建築学科の研究室に

ここでは、上部に重ねて、最上段の縦材を予め天井に設置した表面下地材とL型金物で連結し、背の高い本棚を間仕切りとしてご利用いただいています。
間仕切りの手前側には既存の低い本棚を配置し、そこと新たに設置した本棚の上部をゼミ側からの利用に向けて、反対側は教授の執務スペースとして活用されています。


File338 縦横にジョイントした特注大型サイズ

新しいオフィスの会議室には、4台の本棚が組み合わされて特注の大型サイズの本棚が設置されました。会議室の天井高は2,900mmあり、壁面は両側に柱があり、水平方向に3,300mm広がっています。
壁面を最大限活用して本棚を設置するという要望に応えるため、複数のユニットを組み合わせて作成されました。


File787 天井の高いワークスペース

高さ4mの高いコンクリートの打ち放しの壁で囲まれた室内には、入り口から平面的に3層に仕切られた空間が広がっています。手前は打ち合わせスペース、その奥には天井までの本棚を介したワークスペース、そして模型作業場が配置されています。この設計事務所の空間では、3つのスペースを壁で厳密に仕切るのではなく、本棚によって緩やかにつながっており、向こう側に抜けることができるという特徴があります。

考察

壁一面の本棚に対する憧れは、時代を逆行する感覚として捉えられます。
それでもこの憧れがあるのは、物理的な本が持つ触れる喜びや、本の匂い、ページをめくる音など、電子書籍やネットでは得られない体験があるからです。
本棚には個々の本が物理的に並んでおり、自分のコレクションや興味を引く本を手に取り、その存在を感じることができます。
また、壁一面に本が並ぶ光景は、知識や冒険が広がっているような魅力を持ち、私たちの想像力をかき立てます。
これらの理由から、電子書籍やネットが便利であっても、物理的な本棚への憧れは今なお根強く残っています。